ある朝、父がとても汚れた小さな小さな犬を手に乗せ連れてきた。
まだ夜も明けきらない早朝、家族一早起きの父が車庫に降りていくと、
車の下で何か弱々しい影がしきりに動いており、
びっくりして覗き込むとその仔犬がいたと言う。
抱き上げるとみいみいと情けない声で鳴き続けた。
片手に収まってしまう小さな命はくたびれて。
赤黒く血液が乾いたように汚れた状態だった。
大きさからして生まれてから時間が経っていないのだろう、
そんな姿で車の下でひとりぽっちで鳴いていた。
結局その子を手に乗せたまま家に上がってきた父は、
寝室にいた母の目の前にいきなり差し出して驚かせた。
その少し後、起きぬけの私も仔犬と初対面を果たす。
お風呂場で汚れを洗い流してあげると、
赤黒い汚れで固まっていた小さな身体がやわらかになって、
乾かすと毛がふわふわになった。
白と黒の牛柄の模様をした愛くるしい姿が現れた。
マシュマロみたいだと思った。
「こりゃ仕方ないわなあ。」と父。
ため息まじりのぶっきらぼうな言葉と裏腹、
仔犬のまだ拙い動きを笑いながら目で追っていた。
どんな経緯でうちまで辿り着いたのかは分らないけれど、
「どうしよう」と話し合うこともなく仔犬は
その日からうちで暮らすことになる。
13年前のある朝の出来事。
その日私は一日中考え、学校から帰ってから「今日から大地だ」命名した。
柴犬(当時1歳)の空とうまくやれるか心配だったけど、
その必要はなくすぐに仲良くなった。
2匹はいつも一緒にくっついて回った。
空に比べ、ほとんど自己主張をせず何につけても遠慮がち。
でもその遠慮をたまに爆発させ、稀に意外ないたずらをしてみせる。
数回の家出歴もある。
でもあまり遠くへ行く度胸もないのですぐに戻ってくる、そんな大地。
そろりと寄ってきて全体重を預けじっとする。
それが彼なりの唯一の甘えの表現で、
私が実家を離れてたまにしか戻らなくなっても、
帰省の度にそう静かに甘えて来てくる。
私が大好きな柔らかい重み。
その大地が急に倒れたのだと、母から連絡が来た。
父が車庫に降りた時、大地は頭を傾けた状態で呼吸も苦しんでいて、
近くには吐いたものがあった。
動物病院は時間外だったけどいつもの先生が無理を聞いてくれ、
処置ののちそのまま数日入院になった。
脳に障害があるかも知れないと言われた。
年齢を考えたらおかしくはないって。
考えて見ればもう大地は13歳。空は14歳。
犬の平均寿命は12~15歳と言われる。
それを考えると、私たちもそろそろ覚悟をしなければならないのかな。
今はすこし落ち着いているけれど、
胸が締め付けられる思いです。
悲しくも自分たちの力では避ける事のできない現実が確かに近づいている、
小さな、それでも大きな命を今危なっかしい気持ちでただただ想います。
「生きる」にはこう言う事も含まれているのは分かっているけど、
やっぱり苦しい。
大地に会いたいなあ、