いつも背筋がシャンとしていた。
トレンチコートを着て帽子を少し斜めに被り、
大股でせっせと歩く姿が印象的だった。
たまに浅い色のサングラスをかけたりすると、
見た目かなり怖くなるけど中味はとてもお茶目だった。
「みっちよのた〜めな〜らエンヤコ〜ラ〜」と、外でも遠慮なくよく歌った。
息子である父にしてきたのとは別人の様に、
嫁である母と孫娘の私には劇的に甘かった。
いつも「自慢の嫁だ。」と外で言って回っては母の事を可愛がった。
「安いものでもわたしが着たら舶来品に見えるだろう?」
といたずらな表情で私達に笑いかけて、満足そうにその場を立ち去る後ろ姿。
それから想い出は飛んで、最期のあの日の別れ際の言葉をふと思い出した。
鼻がツンとした。
そんな今日は祖父の命日。
この素敵な季節は、少し淋しいです。
桜みたいに儚くて消え入りそうな時だから、
何だか自分の大切なものまで春と一緒に連れて行かれてしまいそうな気持ちになって、
心の中で慌ててその輪郭を辿った。
絶対に手離したくないものの手触りをそこで再認識して、もう一度誓う。
今この時だっていつかは思い出になる。
将来の私が、微笑みながら回想出来る「今」をいつも送っていたいと思う。
昨日から今日とっても素敵な日だったよ、おじいちゃん。
四月一日。
写真立ての祖父が笑っている気がする。